第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第八話 東への渇望

海が、呻(うめ)いている。 吉備(きび)の高島宮(たかしまのみや)を発(た)った神軍の船団は、播磨(はりま)の灘(なだ)を抜け、いよいよ浪速(なにわ)の海へと差し掛かろうとしていた。 これまでの瀬戸の内海の、あの鏡のような凪(なぎ)はどこへ...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第七話 吉備の高島宮

風が、赤く錆(さび)びていた。 安芸(あき)の多祁理宮(たけりのみや)を発(た)った神軍は、瀬戸の内海をさらに東へ進み、吉備(きび)の国に至った。 現在の岡山、高島宮(たかしまのみや)である。 この地を支配する匂いは、潮の香りでも、泥の臭気...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第六話:安芸の多祁理宮(たけりのみや)

島々が、海に縫い付けられている。 安芸(あき)の国、埃宮(えのみや)とも呼ばれる多祁理宮(たけりのみや)。 現在の広島にあたるこの地は、瀬戸内の穏やかな海に無数の島影が浮かび、天然の迷宮のごとき様相を呈していた。波は鏡のように平らであり、風...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第五話 筑紫の岡田宮

水が、淀(よど)んでいる。 豊国(とよくに)の宇佐を立った神軍の船団は、響灘(ひびきなだ)の荒波を抜け、筑紫(つくし)の岡田宮(おかだのみや)に至っていた。 現在の遠賀川(おんががわ)の河口付近、海と川が交じり合う広大な湿地帯である。 ここ...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第四話 宇佐の神託

速吸の門を抜け、瀬戸内の凪(なぎ)へと滑り込んだ船団は、豊国(とよくに)の宇佐(うさ)へと至った。 山が、穏やかに笑っているように見えた。 日向の荒々しい岩肌や、速吸の門の牙を剥く激流とは異なる。豊国の地は、その名の通り豊饒(ほうじょう)な...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第三話 速吸の門(はやすいのと)

海が、牙を剥(む)いていた。 否、海そのものが巨大な顎(あぎと)となり、彼らを呑み込もうとしていた。 豊国(とよくに)と伊予国(いよくに)を隔てる狭い海峡である。 のちに豊予(ほうよ)海峡と呼ばれるこの水域を、古き人々は畏怖(いふ)を込めて...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第ニ話 美々津の船出

木が、鳴いている。 美々津(みみつ)の浜には、連日、巨木が断末魔を上げるごとき音が響き渡っていた。 クスノキである。 南国の湿潤な気候と、強烈な陽光を喰らって育った樹齢数百年の巨木たちが、斧によって切り倒され、鑿(のみ)によって穿(うが)た...
第1巻:東征の神軍

【第一章】天孫の旅立ち 第一話 日向の誓い

風が、澱(よど)んでいる。 男はそう思った。 日向(ひむか)の国、高千穂の宮。 海から吹き上げる風は、湿気をたっぷりと含んで重い。 その湿り気は、宮殿を支える太い柱に青苔(あおごけ)を蒸させ、男の肌にまとわりつく。 四十五年。 この男――カ...